ネット犯罪の定義

 「ネットワーク犯罪」(net crime)とは、ネットワークに関連する犯罪行為を総称して使われている用語である。

この言葉に関連して、「コンピュータ犯罪」(computer crime)、「ハイテク犯罪」(high-tech crime)、「サイバー犯罪」(cyber-crime)など、他にも多様な用語が使用されてきている。

 用語説明

  コンピュータ犯罪

1980年代までは、「コンピュータ犯罪」(computer crime)という言葉が使用されることが一般的であった。

すなわち、1986年にOECDは報告書「コンピュータ犯罪−立法政策の分析」を公表し、その前後の時期には多くの先進国でコンピュータ犯罪の対策立法が成立し、わが国でも1987年にコンピュータ犯罪等に関する刑法の一部改正が成立している。

コンピュータ犯罪について、警察庁では「コンピュータシステムの機能を阻害し、又はこれを不正に使用する犯罪」と定義している(1990年版『警察白書』92頁)。なお欧州評議会も「コンピュータ犯罪専門家会合」を設置している。

これらの時代には、インターネットは未だ学術ネットワークにとどまっており、銀行等の閉鎖的な業務用ネットワークや一部のパソコン通信を除けば、現在のような電子ネットワークは発展途上の段階にすぎなかった。そうした背景もあり、刑法一部改正ではネットワークに正面から対応した規定は設けられなかった。

しかし、前記OECD報告書においては「コンピュータ犯罪」を5類型に区分し、そのひとつとして「不正アクセス」という類型が取り上げられており、そこにはネットワーク犯罪はコンピュータ犯罪の一類型として捉えられていることが示されている。

こうした捉え方の延長線上にあるものとして、わが国でも1996年4月に公表された警察庁の情報システム安全対策研究会「情報システムの安全対策に関する中間報告書」においても、「コンピュータ犯罪」のひとつとして「ネットワーク上の不正行為」が取り上げられているが、要するに、この段階では「ネットワーク」は、中心的存在として意識されていなかった。

ネットワーク犯罪

 

その後、本格的なネットワーク時代が到来しようとする時期になると、「ネットワーク犯罪」という言葉も登場するようになった。

すなわち、警察庁関連の(財)社会安全研究財団情報セキュリティ調査研究委員会が翌1997年4月に公表した「情報セキュリティ調査研究報告書」では「ネットワーク犯罪」という言葉が使用され、「近時の急速なパソコン及びインターネットの普及の実態に照らせば、あらゆる人々ないし団体がネットワーク犯罪の被害者となり得る」「各リスクに応じた情報セキュリティ技術・製品の適切な利用を通じて、ネットワーク犯罪による被害を防止することが望まれる」などと指摘している。

1998年2月に警察庁がとりまとめた「情報セキュリティビジョン策定委員会報告書」でも「ネットワーク犯罪防止法」整備の必要性が提唱されており、ここでは「ネットワーク上の又はネットワークを利用した犯罪」という意味で使われている。

ハイテク犯罪等の特徴

1.    匿名性が高い
(コンピュータ・ネットワーク上では、相手方の顔や声を認識することはできず、筆跡、指紋等の物理的な痕跡も残らない。相手方が本人であるかどうかの確認は、専らID・パスワード等の電子データに依存して行われる。このようなコンピュータ・ネットワーク上の匿名性に目を着け、正規の利用者のID・パスワードを盗用するなどの不正アクセスにより、その利用者になりすましてハイテク犯罪を実行する事例が多発している)

2.       犯罪の痕跡が残りにくい
(コンピュータ・ネットワーク上の行為は、すべて電子データのやり取りであるため、その記録を保存するための措置を特に講じない限り、その痕跡は残らない。また、その記録が保存されている場合にも、改ざんや消去が容易である。)

3.       不特定多数の者に被害が及ぶ
(ホームページ、電子掲示板等は個人が不特定多数の者に情報を発信するための簡便なメディアとして注目されているが、これが犯罪に悪用された場合には、広域にわたり不特定多数の者に被害を及ぼすこととなるほか、被害が瞬時かつ広域に及ぶこともある。)

4.       暗号による証拠の隠蔽が容易である
(暗号が犯罪に悪用された場合には、その捜査が著しく困難になるという問題が生ずる。)

5.       国境を越えることが容易である
(インターネット等のグローバルなコンピュータ・ネットワークを利用すれば、国境を越えた情報の伝達・交換を瞬時にして簡便に行うことができるため、ハイテク犯罪は、従来の人、物、金の移動を伴う犯罪に比べ、その国際的性格が顕著である。)    1998年版「警察白書」

サイバー犯罪

 

2000年に開催された沖縄サミットでは、電子ネットワークを主要対象とした「サイバー犯罪」(cyber-crime)という新たな言葉が、従来の「ハイテク犯罪」と並んで使用されるようになった。

すなわち、沖縄サミットのコミュニケの44番では、「我々は、世界的な情報社会における安全と信頼性を著しく脅かし得るサイバー犯罪などのハイテク犯罪に対し、協調したアプローチをとらなければならない。我々のアプローチは、グローバルな情報社会に関する沖縄憲章に述べられている。これを進めるため、我々は、10月の合同ベルリン会合を含め、産業界との対話を推進する。我々は、パリでのサイバー空間における安全性と信頼性に関する政府と産業界との対話によって生み出された結果及びモメンタムを歓迎し、産業界の参加の下で日本で開催されるハイテク犯罪に関する第二回ハイレベル会合に期待する。」(*外務省の仮訳による)と述べており、ここでは「サイバー犯罪」について定義がなされているわけではないが、「ハイテク犯罪」の一類型という位置付けがなされている。

同時に発表された「グローバルな情報社会に関する沖縄憲章」(IT沖縄憲章)においては、「グローバルな情報社会を構築するための国際的な努力には、犯罪のない安全なサイバー空間を強化するための協調行動が伴わなければならない。我々は、サイバー犯罪と闘うために、情報システムの安全のためのOECDガイドラインに示されている効果的な措置が実施されることを確保しなければならない。国際組織犯罪に関するリヨン・グループの枠組みにおけるG8の協力は強化される。我々は、最近の『G8パリ会合:サイバー空間における安全性と信頼性に関する政府と産業界との対話』の成功を基礎として、産業界との対話を更に推進する。ハッキングやウィルスといった安全性に関する緊急な問題についても効果的な政策的対応を必要とする。我々は、枢要な情報基盤を保護するために産業界及びその他の利害関係者との関与を継続する。」としている(*外務省の仮訳による)。

ここに出てくる「G8パリ会合」とは、2000年5月にパリで開催された、ハイテク犯罪に関するG8諸国の政府と産業界との第1回ハイレベル合同会合を指している。この会合では、インターネット上の犯罪(特にインターネット犯罪者の探知及び特定を重点的に)がテーマとされた。具体的にはハイテク犯罪に関する産業界・政府側共通の課題およびその課題の解決手段について議論された。合意文書は作られなかったが、終了後のプレスリリースでは、「サイバー犯罪」という言葉が頻繁に登場する。

また、沖縄サミット終了後の同年10月にベルリンで開催された、G8リヨングループ・ハイテク犯罪に関する政府・産業界合同ワークショップのプレスリリースでも、「21世紀の技術が、我々の生活様式に変化をもたらし、又無数の新たな機会を提供するのと同時に、コンピューターとネットワークはもはや犯罪者が国境に制約されない新たな犯罪にとってのフロンティアを開いた。プライバシーを守りつつ、法執行機関、民間、消費者及びその他の者がサイバー犯罪者の先を行くためには、政府と民間が今までにないほど協力して取り組んでいかなければならない。」としている。

さらに欧州評議会では、「サイバー犯罪条約」の起草作業が進められており、わが国もオブザーバーとして参加している。

こうして国際会議の場でも、「サイバー犯罪」という言葉が使用されるようになってきている。

ちなみに、沖縄サミットの前年(1999年)に制定された不正アクセス禁止法(後述)においては、「電気通信回線を通じて行われる電子計算機に係る犯罪」(1条)という言葉が登場している。

警察庁「不正アクセス行為の禁止等に関する法律の概要」によれば、この言葉は、「電子計算機使用詐欺、電子計算機損壊等業務妨害などコンピュータ・ネットワークを通じて、これに接続されたコンピュータを対象として行われる犯罪と、コンピュータ・ネットワークを通じて、これに接続されたコンピュータを利用して行われる詐欺、わいせつ物頒布、銃器・薬物の違法取引などの犯罪の両方を指しています。」と説明している。

これらの言葉が、最も「ネットワーク犯罪」と類似した概念であるように思われる。

以上の概念を、一応ではあるが整理すると、次のとおりとなる。

概 念

定 義

定義の出典

コンピュータ犯罪

コンピュータシステムの機能を阻害し、又はこれを不正に使用する犯罪

1990年版「警察白書」92

ネットワーク犯罪

ネットワーク上の又はネットワークを利用した犯罪

警察庁「情報セキュリティビジョン策定委員会報告書」

ハイテク犯罪

コンピュータ技術及び電気通信技術を悪用した犯罪

1997年版「警察白書」

サイバー犯罪

不 明

IT沖縄憲章」

「電気通信回線を通じて行われる電子計算機に係る犯罪」(不正アクセス禁止法1条)

電子計算機使用詐欺、電子計算機損壊等業務妨害などコンピュータ・ネットワークを通じて、これに接続されたコンピュータを対象として行われる犯罪と、コンピュータ・ネットワークを通じて、これに接続されたコンピュータを利用して行われる詐欺、わいせつ物頒布、銃器・薬物の違法取引などの犯罪の両方

警察庁「不正アクセス行為の禁止等に関する法律の概要」

 

現在では、「コンピュータ犯罪」、「ハイテク犯罪」、「ネットワーク犯罪」、そして「サイバー犯罪」という言葉は、ほとんど区別されることなく使用される傾向が見られるが、以上に見てきたとおり、各用語は歴史的背景の下に用いられてきたものであるから、したがって、限られた射程を有するものであることに、注意する必要がある。

参照http://www.law.co.jp/okamura/jyouhou/cybercrime.htm

 

 

 

 

統計(警察白書より)平成9年以前の統計は平成10年警察白書図1−3参照

平成9年度警察白書(犯罪の分類とその事例・対策)

コンピュータ犯罪、ネットワーク利用犯罪等の現況と対策

1 コンピュータ犯罪、ネットワーク利用犯罪等の現況

 近年、社会においてインターネットに代表されるコンピュータ・ネットワークの急速な普及、発達が経済活動等に利便をもたらす一方で、コンピュータ・ネットワークを通じて外部から侵入するハッキング(クラッキング)によるものをはじめ、コンピュータ・ネットワークを手段とする新たな形態の犯罪の発生が問題となっている。
(1) コンピュータ犯罪
 平成8年に警察庁が把握したコンピュータ犯罪(注)の件数は133件であるが(表4−8)、最近の特徴として、コンピュータ・ネットワークを通じてサーバ・コンピュータに外部から侵入し、ファイル等を破壊してシステムをダウンさせるなど、コンピュータ・ネットワークの普及、発達を背景とした本格的なハッカー(クラッカー)事案が発生してきている。
(注) コンピュータ犯罪とは、コンピュータ・システムの機能を阻害し、又はこれを不正に使用する犯罪(過失を含む。)をいう。
〔事例1〕 農業協同組合支所の臨時職員が、4年12月から8年10月にかけて合計134回にわたり、電子計算機の操作により組合員に対する架空の返戻金を発生させるとともに、電子計算機に対し自分の口座に返戻金額の振替入金があったとする虚偽の情報を与えて、財産権の得喪、変更に係る不実の電磁的記録を作り、総額約1億3,000万円の不法の利益を得た事件で、12月に、同職員を電子計算機使用詐欺で検挙した(佐賀)。
〔事例2〕 4月に、大分市内のインターネット通信団体のホスト・コンピュータが不正に操作され、会員のパスワード約2,000人分や個人のホームぺージなどのデータが消去され

4−8 コンピュータ犯罪の把握状況(平成8年)

て、同団体へのアクセスが一時中断した、電子計算機損壊等業務妨害容疑事件が発生した(大分)。

2 ネットワーク・セキュリティ対策の推進

1) 総合的な体制の確立
 コンピュータ・ネットワークの普及拡大に伴う犯罪その他の不正行為の態様の変化に対処するため、警察庁では、平成8年4月、長官官房にネットワーク・セキュリティ対策室を設置し、犯罪の予防・捜査の両面から総合的なネットワーク・セキュリティ対策を進める体制を整備した。
さらに、同月、警察庁では、民間の有識者の参加を得て開催している「情報システム安全対策研究会」において、「情報システムの安全対策に関する中間報告書」をまとめ、今後推進すべきネットワーク・セキュリティ対策の方向性を明らかにした。
(2) 捜査力強化の取組み
 コンピュータ犯罪の捜査においては、情報処理等の高度な専門的知識・技能が必要であることから、一部の都道府県警察において、これらの専門的知識を有する者をコンピュータ犯罪捜査官として中途採用し、コンピュータ犯罪に対する捜査力の向上に努めている。平成8年12月には、警察庁において、「コンピュータ犯罪捜査官合同研修会」を開催し、最近の主な検挙事例についての分析・検討や民間の有識者による講演が行われた。
 さらに、8年10月、コンピュータ犯罪等の捜査に伴う技術的な困難に対処するため、警察庁では、ネットワーク・セキュリティ対策室に、捜査現場への応援派遣等を通じて都道府県警察の捜査支援等を行う「コンピュータ犯罪捜査支援プロジェクト」を設置した。都道府県警察においても、ネットワーク・セキュリティ対策委員会、コンピュータ犯罪捜査支援プロジェクト等を設置するなど体制の強化を図っている。
 また、オウム真理教関連事件がそうであったように、犯罪捜査の対象となる証拠や情報がフロッピー・ディスク、光磁気ディスク等に電磁的記録として保存されているケースが増加しているが、暗号ソフトの利用の増加、新種の電磁的記録媒体の出現、ハッキング(クラッキング)を手口とした事案の発生により、電磁的記録の解析に当たりますます高度の専門的知識・技能を必要とするようになっている。このため、警察庁においては、犯罪捜査の実効性を確保する観点から、資機材の整備、専門知識を有する人材の育成を行い、電磁的記録の解析体制の一層の強化を図ることとしている。
 特に暗号については、暗号化された電子データが捜査の対象となった場合に捜査機関がこれを解読する「鍵」を入手する手続の在り方が、経済協力開発機構(OECD)等において議論されているところであり、警察庁においても、OECDの専門家会合に職員を派遣するなどして調査研究を進めているところである。
(3) 情報システム安全対策指針の改定
 警察庁では、これまでに、情報システム安全対策研究会において、「情報システム安全対策指針」(昭和61年)、「コンピュータ・ウイルス等不正プログラム対策指針」(平成元年)を作成し、その普及啓発に努めてきたが、近年の情報システムの小型分散化・ネットワーク化の急速な進展や、これらに伴うハッキング(クラッキング)等の犯罪その他の不正行為の態様の変化等に対処するため、これらの指針の改定を行った。
(4) 電子商取引に係る犯罪等の防止への取組み
 近年、コンピュータ・ネットワークの急速な普及拡大に伴い、電子商取引の実用化に向けた動きが活発化しているところであるが、その一方で、他人のID・パスワード等の不正入手及びそれを悪用した本人へのなりすまし等の事案が増加しており、コンピュータ・ネットワークにおける本人認証システム等のセキュリティ確保の仕組みの構築が早急に検討すべき課題となっている。
 また、電子商取引の決済手段の一つとされているクレジットカードシステムについても、盗難カードの不正使用や偽造等の問題が指摘されている。
 そこで、警察庁としては、ID・パスワード、クレジットカード番号の不正使用等を防止し、電子商取引等の健全な発展に資するため、平成9年4月、生活安全局生活安全企画課に設置したセキュリティシステム対策室を中心として、広報啓発活動や関係省庁、関係業界団体、消費者団体等との連携体制の構築に取り組むとともに、無権限者によるコンピュータ・システム又はデータへの不正アクセスを規制する法制やコンピュータ・ネットワークにおける本人認証を行う認証機関の在り方等、制度面を含め効果的な施策の調査・検討を進めている。
 その一環として、(財)全国防犯協会連合会に設置されたクレジットカードセキュリティ研究委員会における「クレジットカードシステムのセキュリティに関する調査研究」に参画し、その成果は、電子商取引のセキュリティを視野に入れつつ、8年3月に「クレジットカードセキュリティに関する研究報告書」としてまとめられた。7月からは、(財)社会安全研究財団に設置された情報セキュリティ調査研究委員会における「国内における情報セキュリティ産業の実態及び情報セキュリティ施策の国際的動向に関する調査研究活動」への参画等も行っているところである。
 さらに、8年10月に、防犯団体、消費者団体等と共同して、クレジットカード及びパスワードの適切な管理方法等を内容とする消費者啓発用パンフレットを作成し、広報啓発に活用している。
(5) その他の調査研究の推進
ア 少年に有害な情報への対応の在り方に関する研究
 最近、インターネット等のコンピュータ・ネットワーク上に露骨な性描写等を含む有害情報が氾(はん)濫しているが、少年であってもパソコンの使い方さえ知っていれば、これらの情報に容易にアクセスすることができることから、少年の健全育成上看過できない問題となっている。
 コンピュータ・ネットワークには、一般の人が容易に情報の発信者となることができるなど、これまでのメディアとは異なった面があり、従来の対応では、有害な情報への少年のアクセスを遮断することは困難である。
 そこで、警察庁では、学識経験者等を構成員とする研究会を開催して、コンピュータ・ネットワーク上の少年に有害な情報への対応の在り方について検討を行っている。
イ 暗号技術に関する研究
 コンピュータ・ネットワーク上で行われる電子商取引や電子マネー等については、暗号技術がセキュリティを確保するための主要技術となっている。このため、警察通信研究センターにおいては、この暗号の強度の評価についての調査研究を行っている。
ウ インターネット・サイトのシステム管理に関する研究
 科学警察研究所においては、インターネット・サイトのシステム管理状況を把握するため、我が国のシステム管理者128人を対象に調査を実施した。その結果、回答者の約8割が、他の業務等を兼務しながら管理を行っているにすぎないこと、及び労力や資金面での制約等により系統立ったセキュリティ管理が困難な状況にあることが明らかになった。また、専門的なネットワーク・セキュリティ支援団体等の必要性を感じている人が回答者の9割近くに上ることから、今後、そのような団体等を育成することなどが急務であると考えられる。

平成10年警察白書(犯罪の分類と事例)

ハイテク犯罪情勢

1 情報化の現状

 近年における情報化は躍進の一途をたどっており、コンピュータ・システムが日常のあらゆる分野に用いられるようになっている。また、コンピュータ相互がネットワークで結ばれることにより、地理的・時間的制約を越えて様々な情報を大量にかつ瞬時に伝達することができるようになった。コンピュータやそれを結ぶネットワークにより、政治、行政、経済、社会の各分野において業務効率の向上が図られ、今や行政、金融、交通等の公共性の高いサービスをはじめ、我々の日常生活を支える社会的基盤までがコンピュータ・ネットワークへの依存度を強めつつある。
 特に、世界的規模で発展を続けているインターネットでは、国境を越えて、国と国とが、企業と個人とが、そして個人と個人とが結び付けられ、情報の発信と受信が従来以上に迅速かつ自由に行われるようになっている(1−1)。我が国でも、インターネットが企業や家庭に年々普及しており、インターネットに接続するホスト・コンピュータの数が急増している(1−2)。
 政府においても、平成6年8月に内閣総理大臣を本部長とする「高度情報通信社会推進本部」(注1)を設置し、7年2月に「高度情報通信社会推進に向けた基本方針」(注2)を決定するとともに、9年には、インターネット技術等を利用した電子商取引等の推進を加速す

1−1 インターネットの国際接続状況

1−2 日本においてインターネットに接続されているホストコンピュータの数(平成4〜10年)

るため、同本部に「電子商取引等検討部会」(注3)を設置し、高度情報通信社会を実現するための総合的な取組みを強化している。
(注1) 我が国の高度情報通信社会の構築に向けた施策を総合的に推進するとともに、情報通信の高度化に関する国際的な取組みに積極的に協力するため、内閣に設置されたもの。内閣総理大臣を本部長とし、各閣僚を本部員としている。
(注2) 「高度情報通信社会推進本部」が発表した官民における高度情報通信社会推進に向けた基本方針。高度情報通信社会の意義、実現のための行動原則、官民の役割等の基本的な考え方をはじめ、高度情報通信社会の実現に向けた課題と対応、国際的な貢献等について取りまとめている。
(注3) 9年9月、電子商取引等を推進するための制度上、運用上の諸論点について検討を行うため、「高度情報通信社会推進本部」に設置された部会。 10年6月、「電子商取引等の推進に向けた日本の取組み」が取りまとめられ、その中においては、セキュリティ・犯罪対策、違法・有害コンテンツ対策、プライバシー保護等についての提言がなされている。

2 ハイテク犯罪等の現状と今後の脅威

 ハイテク犯罪とは、1997年(平成9年)6月に開催されたデンヴァー・サミットの「コミュニケ」において、「コンピュータ技術及び電気通信技術を悪用した犯罪」を意味する言葉として用いられており、国際的に定着した用語となっている。これを我が国に当てはめれば、刑法に規定されている電子計算機損壊等業務妨害罪をはじめとしたコンピュータ若しくは電磁的記録を対象とした犯罪(注1)又はそれ以外のコンピュータ・ネットワークをその手段として利用した犯罪(注2)ということができる。
 ハイテク犯罪は、情報化の進展に伴い、近年急激に増加しており、その態様も不正アクセス(他人のID・パスワードを盗用したり、セキュリティ・ホールを突いたりするなどして他人名や架空名等でコンピュータ・システムを使用する行為)を手口とするなど悪質化、巧妙化する傾向にある。
(注1) 「コンピュータ若しくは電磁的記録を対象とした犯罪」とは、次のものをいう。
・ 刑法に規定されている、私電磁的記録不正作出罪(第161条の2第1項)、公電磁的記録不正作出罪(第161条の2第2項)、電子計算機損壊等業務妨害罪(第234条の2)、電子計算機使用詐欺罪 (第246条の2)、公電磁的記録毀棄罪(第258条)、私電磁的記録毀棄罪 (第259条)
・ コンピュータにコンピュータ・ウィルスに感染したファイルを送付し、当該コンピュータを正常に使用できない状態にした場合(器物損壊罪)のように、上記以外の犯罪であって、コンピュータ・システムの機能を阻害し、若しくはこれを不正に使用するもの
(注2) 例えば、パソコン通信電子掲示板を利用し、覚せい剤等の違法な物品を販売した場合、コンピュータ・ネットワーク上で他人のパスワードを使用し、その者になりすまして虚偽広告を掲示し、販売代金をだまし取った場合、インターネットに接続されたサーバ・コンピュータにわいせつな映像を蔵置し、これを不特定多数の者に対して閲覧させた場合等が挙げられる。
(1) ハイテク犯罪の認知・検挙状況
 平成9年中のハイテク犯罪の認知件数は263件であり、検挙件数は262件であった。最近5年間におけるハイテク犯罪の認知・検挙状況及び9年中のハイテク犯罪の認知・検挙件数の内訳は、図1−3のとおりであり、その認知・検挙件数はこの5年間で8倍以上に急増している。ただし、その認知件数は氷山の一角であると考えられる。このほか、G7各国中(注)、我が国においてのみ犯罪化されていない(表1−1参照)不正アクセス事案も多発している。
 今後、電子商取引等の普及等に伴い、ハイテク犯罪が一層深刻な状況となるおそれがある((4)ウ参照)。
(注) G7(Group of 7)とは、我が国のほか、米国、英国、ドイツ、フランス、イタリア及びカナダを指す。
 9年中に認知されたハイテク犯罪の主な事例には、次のようなものがある。
[事例1] 農業協同組合職員(23)は、8年1月から9年2月までの間、合計15回にわたり、オンラインシステムの端末を操作して、同組合の金融業務の事務処理に使用されている電子計算機に対し、組合員の定期貯金の解約申入れがあった旨及び自己又は架空人名義の口座に定期貯金解約額相当額を増額する旨の情報を与えて、財産権の得喪、変更に係る不実の電磁的記録を作り、不法に約3,400万円の財産上の利益を得た。9年4月、電子計算機使用詐欺罪で検挙(岩手)
[事例2] 元会社員の男(31)は、インターネットを利用し、オランダ等に大麻種子や栽培器具を注文して取り寄せ、自宅の洋服タンス内で大麻を栽培し、乾燥させた大麻草を所持していた。9年5月、大麻取締法違反により検挙(秋田)
[事例3] コンピュータ・ソフトの開発販売業者(37)は、9年1月から4月までの間、インターネット上に開設したホームページに、一定の情報提供等のサービスを電話回線で行い、その代金を通話料と一緒に徴収する事業の出資者を募る広告を掲載し、元本を保証した上で、その事業による収益から配当金を支払う旨の契約を応募者と交わし、215人から約1,500万円の預り金を受け入れた。同年5月、出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律違反で検挙(北海道)
[事例4] 自営業の男(35)ら2人は、プロバイダサーバ・コンピュータ内に、容易に外すことのできるマスクによって処理したわいせつ映像を記憶・蔵置させて、アクセスしてきた不特定多数の者に有料でこれを再生閲覧させていた。9年6月、わいせつ図画公然陳列罪で検挙(岡山)
[事例5] 専門学校生の男(29)は、9年10月、インターネットを介して、プロバイダのコンピュータ内に開設されたホームページの伝言板に、特定の女性が不倫を望んでいるかのような内容の文書を記録させて、これを不特定多数の者に閲覧させ、もって公然事実を摘示して同女の名誉を毀損した。同年11月、名誉毀損罪で検挙(警視庁)
(2) コンピュータ・ネットワーク上における少年に有害な情報の状況
 コンピュータ・ネットワーク上においては、情報の受発信を匿名で行いやすいことや、

1−3 ハイテク犯罪の認知・検挙件数(平成5〜9年)及び平成9年中のハイテク犯罪の認知・検挙件数の内訳

ハイテク犯罪の認知件数(平成59)


ハイテク犯罪の検挙件数(平成59)

平成9年中のハイテク犯罪の認知・検挙件数の内訳

特にインターネットについては全体の管理主体が存在しないことなどから、性や暴力等に関する少年に有害な情報が氾(はん)濫しており、大きな社会問題となっている。
 平成9年中には、容易に外すことのできるマスクにより処理したわいせつ映像を記憶・蔵置させ、アクセスしてきた不特定多数の者にわいせつ映像を再生閲覧させていた事案((1)[事例4]参照)や、パソコン通信電子掲示板に広告を掲載して顧客を募り、電子メールで注文を受け、わいせつ映像を記録したCD−Rを販売していた事案等が発生している。
[事例] 会社員(26)は、パソコン通信の掲示板に「アイドル画像売ります」等の広告を掲載して顧客を募り、電子メールで注文を受け、女性アイドルの顔写真を合成したわいせつ映像を記録したCD−Rを販売していた。9年9月、わいせつ図画販売罪で検挙(兵庫)
 また、特に最近では、少年に有害な情報の発信者として、インターネット上のホームページ等を利用して性的な行為を表す場面や衣服を脱いだ人の姿態の映像を有料で見せる営業のほか、コンピュータ・ネットワークを利用してアダルトビデオ等についての卑わいな広告を行い、これらの通信販売をする営業等が目立ってきている。
 このような状況の中で、少年が自宅のパソコン等を利用して容易にこれらの情報にアクセスすることができるようになっていることは、少年の健全な育成の観点から看過できない問題となっている。
 この点に関して、総務庁青少年対策本部が9年9月に実施した「青少年の情報通信を利用したコミュニケーションに関する調査」では、子供のインターネット等の利用に当たって改善・配慮が必要な事項として「ポルノや暴力などの有害な情報を子供に見せないようにする」を挙げる保護者が調査対象者の65.9%にも上っているほか、10年2月、(社)日本PTA全国協議会から国家公安委員会委員長等に対して、インターネット上のポルノ映像等を少年の目に触れさせないようにするための善処を求める旨の要望書が提出されている。
 今後の情報化社会の一層の進展に伴い、コンピュータ・ネットワーク上における少年に有害な情報が更に増加するとともに、全国の小・中・高等学校と特殊教育諸学校をインターネットに接続するための施策が進められているなど少年がコンピュータ・ネットワークを利用する頻度はますます高まることが予想され、少年がこれらの情報に接する機会がますます増えることが懸念されることから、所要の対策を講じることが急務となっている。
(3) ハイテク犯罪の特徴
 ハイテク犯罪の主な特徴としては、匿名性が高いこと、犯罪の痕跡が残りにくいこと、不特定多数の者に被害が及ぶこと、暗号による証拠の隠蔽(ぺい)が容易であること、国境を越えることが容易であることが挙げられる。
ア 匿名性が高い
 コンピュータ・ネットワーク上では、相手方の顔や声を認識することはできず、筆跡、指紋等の物理的な痕跡も残らない。相手方が本人であるかどうかの確認は、専らID・パスワード等の電子データに依存して行われる。このようなコンピュータ・ネットワーク上の匿名性に目を着け、正規の利用者のID・パスワードを盗用するなどの不正アクセスにより、その利用者になりすましハイテク犯罪を実行する事例が多発している。
 最近数年間における不正アクセスを手ロとする主なハイテク犯罪の事例は、次のとおりである。
[事例1] 会社役員(54)、銀行員(32)ら3人は、共謀の上、パスワードを探知し、平成6年12月、電話回線に接続したパソコンを操作して、銀行のオンラインシステムを介して、同行の預金業務等のオンライン処理に使用する電子計算機に対し、実際には振込事実がないのにもかかわらず他行の指定口座に十数億円の振込をした旨の虚偽の情報を与え、不法に資金移動させて財産上不法の利益を得た。7年2月、電子計算機使用詐欺罪で検挙(愛知)
[事例2] 会社員の男(25)は、都市銀行に他人名義の口座を開設した上、パソコン通信上で他人のID・パスワードを不正に探知し、盗用してその者になりすまし、同パソコン通信を利用して、パソコン部品販売名下に当該銀行口座に現金を振り込ませてだまし取った。この会社員は、銀行員との対面を経ずに口座を開設できる都市銀行のメール・オーダー・サービスを悪用し、契約した私設私書箱の住所を用いて他人名義の口座を開設していた。8年11月、詐欺罪で検挙(京都)
[事例3] 会社員の男(27)は、9年5月、虚偽の氏名、クレジット番号等を用いてプロバイダから不正に入手したID・パスワードを使って、インターネットを利用し、他人のホームページのデータを削除した上、当該ホームページにわいせつ映像を掲載し、当該ホームページ開設者の業務を妨害した。同月、電子計算機損壊等業務妨害罪及びわいせつ図画公然陳列罪で検挙(大阪)
[事例4] 男子高校生(16)は、プロバイダセキュリティ・ホールを利用してシステム管理者としての権限を不正に取得し、10年1月、プロバイダホームページのデータを削除した上、当該ホームページにあらかじめ入手していた当該プロバイダの顧客情報等を掲載するなどして当該プロバイダの業務を妨害した。さらに、電子掲示板の改ざん等に気付き、防護措置を施したプロバイダの経営者に対し、同人の名誉等に害を加える旨を告知して脅迫し、防護措置の解除、管理者用のパスワードの提供等義務なきことを行わせようとした。10年2月、電子計算機損壊等業務妨害罪、強要未遂罪により検挙(警視庁)
イ 犯罪の痕跡が残りにくい
 コンピュータ・ネットワーク上の行為は、すべて電子データのやり取りであるため、その記録を保存するための措置を特に講じない限り、その痕跡は残らない。また、その記録が保存されている場合にも、改ざんや消去が容易である。実際にも、我が国で設置、運営されているコンピュータ・システムは、犯罪が発生した場合にもその記録が全く保存されない仕組みになっている場合や、その記録が犯罪者に容易に改ざん、消去され得るような場合が少なくない。また、被害者が原状回復を急ぐ余り、誤って犯罪に関する記録を消去してしまう場合もある。
 こうした事例としては、次のようなものがある。
[事例] 8年4月、大分市内のプロバイダホスト・コンピュータが外部から不正に操作され、会員のパスワード約2,000人分や個人のホームページ等のデータが消去されて、同プロバイダの業務が一時中断した、電子計算機損壊等業務妨害容疑事件が発生した。なお、同コンピュータはログを保存する措置をとっていたものの、セキュリティ・ホールを突かれ、その記録も消去されていた。10年5月現在捜査中である(大分)。
ウ 不特定多数の者に被害が及ぶ
 ホームページ電子掲示板等は個人が不特定多数の者に情報を発信するための簡便なメディアとして注目されているが、これが犯罪に悪用された場合には、広域にわたり不特定多数の者に被害を及ぼすこととなるほか、被害が瞬時かつ広域に及ぶこともある。
 実際にも、ホームページ電子掲示板に虚偽の販売広告を掲示し、多数の者から販売代金をだまし取った事件、特定の者をひぼう中傷する内容のメッセージをホームページに掲示し、その者の名誉を毀損した事件等が発生している。
 こうした事例としては、次のようなものがある。
[事例] 無職の男(24)は、パソコン通信を利用して音響機器販売名下に金員をだまし取ることを企て、8年3月から9月までの間、自ら不正に入手した他人のID・パスワードを使用し、同通信の電子掲示板に振込銀行口座と販売広告を掲載して購入希望者を募り、それに応じた被害者に対し、指定した銀行口座に現金を振込入金させるなどして、約120人から総額約1,100万円をだまし取った。同年11月、詐欺罪で検挙(埼玉)
エ 暗号による証拠の隠蔽が容易である
 暗号は、適正に利用される限り、電子データを安全に保存し、伝達するための有効な手段となるが(コラム1参照)、犯罪の証拠となる電子データが暗号により隠蔽された場合等、暗号が犯罪に悪用された場合には、その捜査が著しく困難になるという問題が生ずる。 暗号により犯罪の証拠を隠蔽していた事例には、次のようなものがある。
[事例1] 7年中に検挙された一連のオウム真理教関連事件においては、押収された光磁

気ディスク、フロッピー・ディスク等に保存されていた犯罪にかかわる電磁的記録に高度の暗号化等の処理が施されていたため、その解析作業は困難を極めた(滋賀)。
[事例2] 8年7月に検挙された山口組傘下組織組員らによる逮捕監禁等事件において、押収されたコンピュータに保存されていた同傘下組織に係る情報の電磁的記録に暗号が施されていた(長崎)。
オ 国境を越えることが容易である
 インターネット等のグローバルなコンピュータ・ネットワークを利用すれば、国境を越えた情報の伝達・交換を瞬時にして簡便に行うことができるため、ハイテク犯罪は、従来の人、物、金の移動を伴う犯罪に比べ、その国際的性格が顕著である。その一方で、罰則の適用や犯罪の捜査は、従来の犯罪と同様に各国の主権に基づいて行われるため、各国間における法制の違いや国際捜査協力の隘(あい)路に目を着け、検挙、訴追を免れようとする事件が発生している。
 最近における国境を越えて実行されたハイテク犯罪の主な事例には、次のようなものがある。
[事例1] 会社役員(30)は、自宅において、インターネットを利用し、わいせつ映像を米国所在のプロバイダサーバ・コンピュータに送信して同コンピュータの記憶装置に記憶・蔵置させ、そのわいせつ映像データにアクセスした不特定多数の者に閲覧させた。9年2月、わいせつ図画公然陳列罪で検挙(大阪)
[事例2] コンピュータソフト開発業者(35)は、わいせつ映像等を顧客に有料で見せるためにインターネット上にホームページを開設し、容易に外すことのできるマスクにより処理したわいせつ映像等をサンプル映像として掲載して顧客を募っていた。また、海外からも顧客を募るため、このホームページを英文で作成していたことから、本件の捜査中ICPOイタリア国家中央事務局長から情報提供があるなど、海外でも問題となった。10年5月、わいせつ図画公然陳列罪で検挙(愛知)

平成11年警察白書

ハイテク犯罪への取組み

1 ハイテク犯罪の現状

1) ハイテク犯罪を取り巻く情勢
 高度情報通信社会の発展により、コンピュータ・ネットワークは、電子メール等の身近な情報システムから、行政、金融、交通等の公共性の高い社会基盤にまで浸透するに至っているが、このコンピュータ・ネットワークに作り出される仮想的な空間、いわゆるサイバー・スペース上での犯罪が急増しており、情報通信社会の影の側面への対策が急務となっている。国際的にも、1998年(平成10年)5月に開催されたバーミンガム・サミットの「コミュニケ」において「ハイテク犯罪と闘うための原則と行動計画」を迅速に実施することが宣言されるなど、重要な課題となっている。
 警察庁では、このような情勢を踏まえ、急増するハイテク犯罪(注)に的確に対処するために、平成10年6月「ハイテク犯罪対策重点推進プログラム」を策定、公表した。本プログラムにおいて、グローバル・スタンダードを満たすための体制及び法制の整備等を掲げ、これに基づき積極的な取組みを推進してきたところである。
 国民だれもが安心して高度情報通信社会の恩恵を受けられるように、そしてその健全な発展を促進するため、警察は重大な責務を負っている。
(注) ハイテク犯罪とは、コンピュータ技術及び電気通信技術を悪用した犯罪を指す。
(2) ハイテク犯罪の検挙状況
 平成10年中のハイテク犯罪の検挙件数は415件であり、5年に比べ約13倍となっている(図3−11)。

3−11 ハイテク犯罪の検挙件数(平成5〜10年)及び平成10年のハイテク犯罪の検挙件数の内訳

3) ハイテク犯罪の特徴と主な事例
 ハイテク犯罪の主な特徴としては、匿名性、無こん跡性、不特定多数の者に被害が及ぶこと、暗号による証拠の隠蔽が容易であること、国境を越えることが容易であることなどが挙げられる。
 平成10年中に発生したハイテク犯罪の主な事例は、次のとおりである。
[事例1] 学習塾講師(27)は、12月、インターネットを利用して自殺願望を持つ女性にシアン化カリウムの薬物カプセルを販売し、シアン化カリウムを嚥(えん)下させて、薬物中毒により死亡するに至らしめ、同人の自殺をほう助した。11年2月、自殺ほう助罪で送致した(警察庁)。
[事例2] 無職男性(26)は、8月、インターネットを利用して、規制薬物であるLSDや乾燥大麻を販売した。11年2月、麻薬及び向精神薬取締法違反で検挙した(神奈川)。
[事例3] 自動車販売業者(29)ら9人は、9年6月から10年6月まで、インターネット利用者にダイヤルQ2回線を利用し、わいせつ画像を送信して再生閲覧させていた。6月、わいせつ図画公然陳列罪で検挙した。また、同業者らにわいせつ画像が蔵置されたサーバ・コンピュータを販売した製造業者(31)ら8人をわいせつ図画販売罪で検挙した(警視庁、埼玉、千葉、長野)。
[事例4] 男子高校生(16)は、プロバイダのセキュリティ・ホールを利用してシステム管理者としての権限を不正に取得し、1月、プロバイダのホームページのデータを削除した上、当該ホームページにあらかじめ入手していた当該プロバイダの顧客情報等を掲載するなどして当該プロバイダの業務を妨害した。さらに、電子掲示板の改ざん等に気付き、防護措置を施したプロバイダの経営者に対し、同人の名誉等に害を加える旨を告知して脅迫し、防護措置の解除、管理者用のパスワードの提供等義務なきことを行わせようとした。2月、電子計算機損壊等業務妨害罪、強要未遂罪により検挙した(警視庁)。